2010/05/31

本当に大切なもの

社長との面談は、本社での会議中に行われました。
社長抜きでの全体会議だったのですが、私は途中で呼ばれて
社長室で1対1の面談となりました。

社長
「どうしたの?」


「すみません。」

社長
「説明してくれんと、解らんじゃない。」


「はい。・・・・・」

社長には既にいろんな人からの情報が入っているのですが、
決して自ら話をしようとはされませんでした。
人から聞いた話と、直接聞いた話との違い、
その事を良く理解されているからだと思います。

私は、今の仕事は好きである一方で、役職が不向きで集中できていないこと。
家族が転勤で参っていて、特に妻の調子が良くないこと、
妻の実家に戻りたいこと、サラリーマンを辞めたいこと。
これらを感極まって言葉足らずな表現ながらも、すべて正直に話しました。

社長は一度だけ、社長のお願いという事で地元の支店で働けばいいじゃないか
という意見も下さいましたが、収入の面で難しいことを伝えました。
務めていた会社の収入が少ないと思ったことはありませんでした。
ただ、転勤に不満の妻からは、収入が足りていないという事を
常々言われていた私が、コンプレックスを感じていたのです。

いろいろな考えの結果、決めた事であるという意思を伝えた後、
社長は地元に遊びに行った時は、良い話を聞かせてくれという言葉をかけて下さいました。
本意ではなかったかもしれませんが、懐の深さを感じたのを覚えています。

会社は一人の人材を育てるのに相当の費用を投資しています。
人材は資源ですから、人材流出は間違いなくマイナスです。
しかし、社長は責めるでもなく、納得して頂けました。

このときに、今まで勤めていた会社の良さを実感したのでした。


しかし、そんな会社を辞めた今も後悔の念は微塵もありません。
それは、自分にとって大切なものに気付いているからだと思います。

多くの人にとって、仕事は収入を得ることの手段だと思いますが、
収入を得る手段として今の仕事を続けることと、
家族みんなが幸せであることを考えた時に、
同時に満たされることはない、と気付けたのが良かったなあと心から思えます。

2010/05/24

仕事に無くてはならないもの

私が最後に勤めていた支店は、拠点が群馬と新潟にありました。
新潟はまだ歴史が浅いため、支店の出先という形で
所長が切り盛りをしてくれていました。

まず最初に思ったのが、
所長にすべてを打ち明けなければいけないという事です。

上層部には伝えたので後は、いかにして
後を濁さずに身を引くのかという事に注力が必要です。

次の新潟への出張を控え、所長を食事に誘いました。
後から聞いた話ですが、なんとなく嫌な予感がしていたと言っていました。


所長
「今日は何かあるんですか?」


「・・、いや。」


何かを察していたのかしきりに、何かあるんですか
と聞かれるのには少々戸惑いを感じましたが、
食事も一通り食べたかなと思うところで切り出しました。



「会社を辞めようと思う。」

所長
「・・・・。」

「ここに来た時からそんな気がしていました。」


私は素直に、ダメマネージャーっぷりを嘘偽りなく全て話しました。


所長

「私は、今までの上司で一番尊敬していたんですね。
過去いろいろな上司の方と仕事をさせて頂いたんですが、
本当に支店長が僕の中では一番なんです。
そんなことしていた話を聞いてもそれは変わりません。」


「!!」


感動してしまった私は、部下の前でボロボロに泣いてしまいました。
所長も男泣きでみっともない風景だったと思います。

しかし、このときに感じた喜びは忘れることはないでしょう。

そして、人からの言葉がこれほどありがたく感じたのは久しぶりでした。
所長の人柄がそのまま出たのだろうと思います。

会社を辞める時も、後に信頼できる人が控えていれば
そんなに心配することはありません。


経験は重要ですが、経験だけで仕事の力量が計られるわけではありません。
仕事に無くてはならないものは、一生懸命さや素直さだと思います。


経験を積んで多くの人は素直さや一生懸命さがなくなりますが、
関係なくそれらを持ち続けることができる人が最後に笑うのだと思います。


所長に限らず、素直さと一生懸命さを持っている人材は
苦労しながらも、きっと成功してゆくことでしょう。

2010/05/19

悩んでいるのは自分だけじゃない

妻と常務に辞めることを伝えたその日の夜、

10月の心地よい涼しさを味わいながら歩いて家路に向かう途中、

仲の良かった同期のSやんに電話をしました。



「・・・・・・。」

Sやん
「どした?珍しいね。」


私は仕事柄、電話を最低でも1日30本以上受けたり、かけたりしていますが
本当は電話が大嫌いです。

プライベートでは携帯を持っていません。



「・・・、辞めようかと思って、会社。」

Sやん
「なんで、何で???」


一番仲が良かった同期なので、全てを包み隠さず話しました。


その第一声、

Sやん
「・・俺もな、あんたやから言うけどな、・・・あかんねん。」



びっくりしたその内容は、

社内恋愛をもう1年以上していてまだ誰にもばれていないが、
相手もいい年で遠距離のため、
結婚のプレッシャーがかかっているという事でした。

彼も私と同じ、支店長だったので仕事が大変で
そっちの方に時間がとれないのは容易に想像がつきました。

付き合っている彼女は、転勤する前の同じ職場の女性で
私もよく知っている人でした。
まさか付き合っていたなんて、誰も知らないでしょう。
親友の私も知らないくらいですから。


誰しも、うまくいってそうに見えても
本当の心の奥底までは誰にもわかりません。


実際、会社の中でも比較的うまく言っている支店のマネージャーが
突然辞めるなんてことは、何かがあると思われて仕方がありません。


ですが、心に引っかかっていることにしっかりと向き合い
自分の納得のいく答えを出した後だったので
いろんな方の説得にも流されることもなく進んでゆくことができました。


どんな悩みも、必ず自分が答えを出さなければ
他の人の出す答えでは解決できません。


そのことをSやんと話し合い、
いずれまた戻ってきてほしいという言葉を最後に電話を切りました。


電話しながら泣いてしまっていた涙ももう止み
次に思い浮かんだのは、同じ支店の所長でした。


所長にも伝えなくてはいけないな・・・。


これからは動揺を与えないように要人に伝えてゆくこと
引き継ぎを意識して仕事を進めること

に重点に置いて行動してゆく必要があります。

2010/05/10

もう、迷わない

嫁との話し合いを終えた後、

会社に戻り、机に着くなり辞表を書きはじめました。


後から気付きましたが、辞表には体裁があります。
一身上の都合により退職いたしますの文面だけあれば
後は余計な文章は不要なんですよね。

私は、そういう事も知らずに
ただ、現状の心情を書き綴り、三役に辞めさせて下さいという内容で
ワードで文章を作り、即行でメールにて送信しました。

メールで送信するという事も、普通では無いことでしょう。
それくらい思いは先へと進んでしまっていました。

ひと通り書きあげて、普通ならば動揺するのかもしれませんが
妙に落ち着いた気分になりました。

もう、辞めるんだなあと思うと
不思議な感覚が湧いてくるのを感じました。
もう会社に属していないような錯覚です。


それから1時間もせずに常務から電話がかかってきました。

常務
「今から行くから!」


「!!!」


常務はとても忙しい身です。
日々全国を行脚されていて、その日も東京へ戻られる途中だったようですが
そのまま、群馬まで行くからという内容で電話は切れました。


夜も7時30を過ぎたころ、ホテルの中華料理屋に
常務と私は座っていました。


常務
「何で辞めるん?」

いつもと変わらないながらも、心配そうな口調です。


「実はずっと思っていて、いろいろと考えた末の結果です。」


常務は、私が将来社長になられる器だと感じているほどの方です。
人情味があふれながら、人脈を生かし、切れる考え方で
今までいろいろな功績を残してこられています。

この時に話して下さった内容は、
自宅が自営業で大変な苦労をし、自営ではやめようと思われたこと、
これからの会社に、私が必要な存在であること、
どうしてもだめなら、今の会社の代理店をやったらどうかという提案、
などでした。

大変、ありがたい話ではありましたが
どんな素晴らしい説得であっても、一度決めた心を動かされるくらいなら
辞めるなどとは言ってはいけないと思っています。



男に二言はない。


一度決めたら、やるしかない。



常務も最後には分かって頂けたようでした。


駅にお送りするときに


常務
「悲しいなあ・・・。」

と言って、うっすら涙を浮かべながら改札を通られる後ろ姿に
思わず涙が伝って流れていました。


人通りが多い中でしたが、流れる涙が止まらずに
しばらく、後ろ姿を見ながら見えなくなった後も立ちつくしていました。