嫁との話し合いを終えた後、
会社に戻り、机に着くなり辞表を書きはじめました。
後から気付きましたが、辞表には体裁があります。
一身上の都合により退職いたしますの文面だけあれば
後は余計な文章は不要なんですよね。
私は、そういう事も知らずに
ただ、現状の心情を書き綴り、三役に辞めさせて下さいという内容で
ワードで文章を作り、即行でメールにて送信しました。
メールで送信するという事も、普通では無いことでしょう。
それくらい思いは先へと進んでしまっていました。
ひと通り書きあげて、普通ならば動揺するのかもしれませんが
妙に落ち着いた気分になりました。
もう、辞めるんだなあと思うと
不思議な感覚が湧いてくるのを感じました。
もう会社に属していないような錯覚です。
それから1時間もせずに常務から電話がかかってきました。
常務
「今から行くから!」
私
「!!!」
常務はとても忙しい身です。
日々全国を行脚されていて、その日も東京へ戻られる途中だったようですが
そのまま、群馬まで行くからという内容で電話は切れました。
夜も7時30を過ぎたころ、ホテルの中華料理屋に
常務と私は座っていました。
常務
「何で辞めるん?」
いつもと変わらないながらも、心配そうな口調です。
私
「実はずっと思っていて、いろいろと考えた末の結果です。」
常務は、私が将来社長になられる器だと感じているほどの方です。
人情味があふれながら、人脈を生かし、切れる考え方で
今までいろいろな功績を残してこられています。
この時に話して下さった内容は、
自宅が自営業で大変な苦労をし、自営ではやめようと思われたこと、
これからの会社に、私が必要な存在であること、
どうしてもだめなら、今の会社の代理店をやったらどうかという提案、
などでした。
大変、ありがたい話ではありましたが
どんな素晴らしい説得であっても、一度決めた心を動かされるくらいなら
辞めるなどとは言ってはいけないと思っています。
男に二言はない。
一度決めたら、やるしかない。
常務も最後には分かって頂けたようでした。
駅にお送りするときに
常務
「悲しいなあ・・・。」
と言って、うっすら涙を浮かべながら改札を通られる後ろ姿に
思わず涙が伝って流れていました。
人通りが多い中でしたが、流れる涙が止まらずに
しばらく、後ろ姿を見ながら見えなくなった後も立ちつくしていました。